医学部に進学するやつは全く持って、「こいつだけは医学部にいってはいけない」と思うヤツばかりである。
大抵は動機が不純だ。「金持ちになりたい」なーんてのはまだ可愛い方である。私の場合、「斬りたい」と言うのがまずあった様に思われる。最も、幼い頃は美しい志に燃えていたのであろうが、それは三つの時の事。17歳の今となっては、そんなときの事は面影もなく、猟奇的でサディスティックな欲望に駆られて受験したまでである。
それだけならまだしも良く見るのは「頭がよく思われたかったから」、「人の人生を左右したい」、「神様になりたい」と言うほとんど狂気にちかいものがほとんどである。
動機だけならまだ良い。もっと困るのは、精神的、または能力的に不適切なやつが沢山いるということだ。
私の高校はここら辺で一番の進学校だけあって、医学部予科に決定しているやつが少なくとも二人はいる(私は本科なので別問題)。まあ、自慢できる学校ではないのだが、ここらのほかの学校に比べると進学率はまだマシである。予科に入った事だけで大変なので喜ぶべき事である。そこでこの二人を紹介しよう。
一人はスペイン生れのスペイン人である。親は両方バルセロナ大の医学部卒業。優秀である。長男だけあって非常に期待されている。成績もそこそこ良いし、努力家である。私と同じ化学の授業を取っていて、授業をしょっちゅうサボっていた私にはノートを借りるのにはいい友達であった。
ところが。
本人は小さい頃コックになりたかったのだそうだ。親に猛反対されて断念したらしい。彼の今決められている将来は心臓外科医である。私にしてみれば、料理も心臓を捌くのも同じ様なものなので別にいいんじゃないかと思っていた。それは去年の夏、まだ学期が始まったばかりで彼のことをよく知らないときであった。
しかし授業が進むにつれて、料理どころかこんなヤツに心臓を任せてよいのだろうかと言う疑問が芽生え始め、次第に膨らんでいった。何しろ彼は本当におっちょこちょいで不器用なのである。不注意でもある。それの証拠に私の化学のクラスはProcter and GambleからPyrexの試験管をもらった。Procter and Gambleの社長は私の高校のOBなのである。向こうさんにしてみればゴミをよこしただけなのであろうが、私たちにとっては高価な良い質の試験管をもらうのはうれしい事である。
始めてその試験管を使ったあの日、このわが親愛なる不注意君はなんと二本も試験管をわったのである。そればかりではない。違う日だが彼はクラスメートのネクタイを塩酸で焼いてしまった。そういう事故を彼は連発したのである。
「うーん。こいつに心臓をいじくってもらうぐらいだったら私は死のう。」と私が思ったのも当然だと思う。ところが医学部はそういうことは見ないらしく、彼はらくらくと医学部予科に合格してしまった。
もう一人はアメリカ生れのアメリカ人である。数学(二年生の時に一クラス余分に取っていたので、大学一年生レベルの微分方程式である)と英文学が一緒だった。顔はクリントン元大統領を若くしたような顔である。雰囲気も似ているがもうちょっとにやけている。彼は英文学が全く理解できず、よく先生に顰蹙を買っていた。また彼は英文学のテストで80点満点中18点と言うおそるべき点数をとった経験がある。最も彼は全然気にせずへらへら笑っていただけであった。彼はゴルフ部のキャプテンで州大会で結構いい線を行っていた。ゴルフは三つの頃からやっているらしい。
彼は普通の生徒だったのだが、最上級生になって本性を現し始めた。まず、自分の家でアルコール入りの乱痴気パーティーをやり、逮捕された。その次にフロリダでスピード違反で摑まった。しまいには酔っ払ったある晩友達にそそのかされて太ももに刺青してしまったのである。この刺青がまた趣味が悪い代物らしく、ある人の証言によると、ラーメン丼に描いてあるヘターな龍があるでしょう?あれだったらしい。かなり痛かったと本人は言っていた。
このいわゆるオオバカがやりたいのはなんと整形外科。私は思わず訊いてしまった。
「それって自分の刺青をとるため?」
すると彼は太ももの所で手を動かし、「何?こうやって?」と訊き返してきた。
「うん。」
「そうだぜ。」
一年先輩になんと医学部本科に入った人がいる。刺青と一緒の学校だ。この人がまた変な人で友達はいない。親に徹底的な理系の英才教育をされたらしく、すでに14歳で微積分を終わらせていた。彼は強迫観念症でお昼ご飯のあと、その時私が先生が来るのを待っている所のすぐ脇の階段を彼は必ず上がっていったのだが必ず右の方の階段の左端を上らないと気がすまないらしく、そこに人がいたりすると必ず下りてきてやり直していた過去がある。数学のチームで一緒だったのだが笑っているのを私は見た事が無い。彼は元々工学部に行くのが計画でCalTechに受かっていたのだが、それをけって医学部に行った。私からすると彼は工学部に行った方が良かった人間である。医は一応仁術だが彼は患者を人と思うどころか自分自身が人間離れしている。
そこに持ってきて私がいる。ある日数学のクラスで刺青君が私に医学部にいったら何になりたいのか訊いてきた。
「脳外科医。」
「なんで?」
「患者が絶対意識不明だし。それに面白そうだから。」
彼は顔をこわばらせて言った。「お前に脳をいじられたら直りそうだが性格も変えられちまいそうだ。」
こういう人間が将来の人々の健康管理をして沢山の人の生命を握っていくのである。そういうことを考えると私は背筋が寒くなるがまあ、私がかかる医者は気をつければいいや、私は私にかかんないし、と考えている自分を発見する。一人ぐらい、良心的な医者がいるだろう。私はそいつを見つければよいのである。
ところでKings College Londonの授業は九月24日から始まります。お楽しみに。
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